以心伝心【完】

アヤの話の続きが気になる。いや、さっきの言葉だけで十分なんだけど、その時の対処的なものも聞いてもらうように頼んだのは俺だ。

本当はちゃんと聞きたいけど、真のいる前で電話を取って話の途中で席を外すのは何かやましい事をしていると思われそうで出来ない。やましい事ではなく、言えば隠し事なんだけど、それを誤解されては困るし、今日この後の予定にも影響が出ては困る。

アヤには「また電話する」と言って電話を切った。チラリと真を伺うと、皿を持ち上げて底に溜まった練乳をイチゴに付けていた。
声漏れなんかで真に知られてしまっては困る。鈍感な真だといっても、自分の事だし、自分の体の変化にくらいは自分で感じてほしい。

真一人だけのことではないけれど、俺から言うのも違うような気もする。
いつ気付くのかは全く予想が付かないけど、さすがに気付くだろうと思ってる。でも、予想を遥かに超えてしまうのが真なんだ。

「アヤちゃん、なんてー?」
「別に。俺と真の邪魔しに電話してきただけ」
「マジ?うざー」

ケラケラ笑いながら最後のイチゴを口に入れて、味わうように食べてから満面の笑みで「ごちそうさま!」と手を合わせた。どうやら声漏れもなく、バレなかったらしい。
イチゴを食べれて満足な真は用意していたクランベリージュースを飲んで、ソファーに座ったままの俺の隣に掛けた。

「アヤちゃんって毎日ヒマしてるイメージあるんやけど」
「ひどい言いようだな。一応、石川さんとこのバーでバーテンやってんだぞ?」
「そうなん?」
「先月から働き始めたって言ってた」

全員就職してるけど、アヤは副業的な感覚で週に数回数時間だけバーでバイトしている。趣味的なもんらしくて、酒好きの影響もあってマスターに頼み込んで始めたらしい。この間、顔を出しに行ったときもいた。

「アヤちゃん、お酒好きやもんな」

ちっこいけど、あぁいうの似合いそう!と想像で作り上げたアヤの姿にうんうんと首を立てに振った。
ちっこいは余計だと思うけど、真とそんなに身長が変らないから言われても仕方ないか、と少し哀れに思った。
それよりも、この酒の話。どうにかして逸らさないと大変なことになりそうな予感がする。

「あたしもお酒飲みたいなー」

ポソリ、と呟く。
こういう流れはあまりよくないんだ。一度言ったら飽きるまで言い続けるのが真だ。きっと今から30分はちょいちょい挟んでくるに違いない。

「そうだ。そういえば、もうすぐ恒例のクリスマスパーティーだな」

何とか逸らそうと思いついたネタがコレだ。真は逸らされたことに気付いて、睨んでいたけど、俺はそれを無視して話し続けた。

「今年も幹事は後藤らしい」
「ごっちゃん、パーティー大好きやもんなぁ」
「今年は店が変わるって言ってた」
「どこ?」
「それはまだ聞いてない」
「そっかぁ。楽しみ!」

どうにか成功したらしい。とりあえず、酒の話題からは回避した。

ここ一ヶ月はこればっかりに気を遣って頭を使うことが増えた。どうすれば話題に乗ってくるか?!なんて考えながら毎日ヒヤヒヤしてる。それもこれも真が早く気付いてくれたらこんな苦労はしなくて済むんだけど。

「あ、今年はアヤちゃんも幹事するって言うてたような気がする」
「そうなの?じゃあ、例年よりもハデになるんだろうな」

ハデ好きなアヤのことだから、きっと場所も音楽も食べ物も豪華にするに決まってる。クリスマスパーティーなんだからハデにして悪いことはないけど、アヤの場合は楽しければ何でもアリな所があるから何が準備されるのか不安だ。

楽しみやね、と俺の肩に頭を預ける真。こんな些細なコミュニケーションも最近は多くなった。
最初は恋人とルームメイトの境界線や違いがわからなくて戸惑ってた真だけど、一度そういう関係になるとこうして甘えるようになった。いつもはツンツンしててクールなイメージだけど、甘えるようにくっつきだかるのは俺だけしか知らない真の可愛い部分だ。

普段とのギャップに萌えてしまう俺は相当ヤバイんだろうと思う。真が俺にくっついて目を閉じてしまうのと同じくらい、真の温もりに安心してる俺がいる。
ずっと離したくない温もり、っていうのはコレのことをいうんだと思う。
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