以心伝心【完】

真剣に心を決めたのは真の元カレ騒動が終わった直後。もう一年以上も前の話になるけど、あれの後、“もう耐えられない”と思ったのが本心だった。

何にって言うのは“真の過去”にだ。
真いわく、今まで出てこなかった元カレ達がこの短期間で現れるなんて意味不明だって言ってた。
確かに俺以上に驚いているのは真に違いないんだろうけど、二人にも遭遇している彼氏である俺の気持ちにもなってみろ、って思った。

俺に関しては、元カノなんていない。本気で好きになった女なんて真以外にいないし、元カノの数なんて何人いるか知らない。それにその女の方だって俺をカウントに入れているかどうかわからないような関係だった。
でも真は違う。全ての男に真剣に恋をしていて、あの最低男にしても、あの頃は本気だったはず。

それが腹立つんだ。俺に出会う前に好きだった男にこんな表情を見せていたのかと思うと過去に嫉妬してしまう。それに打ち勝とうとするには、真の人生の中最後の男になるしかない!そう思った。

話だけ聞いてりゃ軽いな、って言われるかもしれないし、思うかもしれない。ただの嫉妬心だけで一生真を好きでいれんのか?って聞かれそうだ。でも俺は、この先も一生真を大切にする自信がある。ずっと好きでいる自信がある。
真がどうのこうのって言うよりも、俺が真の傍にいて、俺が真を幸せにしてやりたい。そして、誰よりも幸せな家庭を築きたい、そう強く思うようになった。

そして浮かんだのは“結婚”の二文字。
付き合った期間は確かに短いけれど、一緒にいて理解しようとした期間はきっとどんな恋人達よりも長い。
付き合ってからはあまりない喧嘩も、ルームメイトのときに散々したから今の平穏な日々があるんだろうし、お互い心から想い合っているから些細な気遣いもできる。
真の優しさも温もりも本当に失いたくないと心から強く思う。

ただ、本当に結婚するとなると、まずはプロポーズしたり、両親に挨拶したり、何かと段階を踏まなきゃいけないことがある。
真にプロポーズなんて、冗談にされて爆笑されそうな気がして、決めたら即行動!なんてできない。だけど、指輪は買った。世間でよく言われる“給料三ヶ月分”なんて、わけわかんないことはしてないけど、真の好きそうなシンプルなリングは買ってしまった。

付き合い始めたときから“お揃いのモノや指輪はいらん”って言われ続けてきたから、お祝いしない記念日や誕生日のときは小さなブーケや真の好きな香水を渡していた。
真がそれでいいなら何でもよかったけど、やっぱり俺のものだ示すモノが欲しくて、ネックレスを渡したことがあった。

一流ブランドで安いとは言えないモノだけど、「なんでこんなん…」と言いながらも毎日付けてくれている。それを見ただけで、“俺のモノだ”っていう自己満足に浸る自分がいる。

この指輪に関してはそれとこれとはまた別で、本気で本気のエンゲージだ。
二度押ししちゃうくらい本気の指輪だ。これをまだ渡せていないのは俺自身に色々格闘があったから。
すぐに渡すつもりだったけど、思わぬ事態が発生したり、真の機嫌が悪かったりで、なかなか言い出せずにいた。

体調が優れないのもそのせいがあってなんだけど、真は全く気付こうとしないし、気付く気配もない。周りは気付いているけど、本人は我が儘放題だから苦労させられる。アヤも後藤も、もちろん俺だってそうだ。
今日のアヤからの電話で確信に変わったから、俺も覚悟はできた。

ずっと前から心は決まってる。それを言葉にするのが来ただけ。
真が冗談にとろうが、笑いで誤魔化そうが、そんなことはどうだっていい。俺達は2年前から“恋人”で、少し前から“パパとママ”だ。

真の変化に気付いたとき、一瞬不安になった。嬉しさのほうが断然勝ったんだけど、真にも仕事があって、やりたいこともあって、毎日充実してるって言葉も聞いていたから、子供には悪いけど、悲しむんじゃないかと思った。

まだまだ遊び足りないこともあるだろうし、社会人としてのキャリアを伸ばすのもこれからだと思う。なのに、このタイミングで発覚したのを真がどう思うかは俺にはわからないし、どう反応するのか想像すらできなかった。

お互いちゃんと避妊もしていたし、間違いなんてことはなかった。それでもきてくれたってことはこの子が望んできてくれたんだと思った。俺と真を親に選んでくれたからきてくれたんだと思った。だから、素直に嬉しかったし、真もそうであってほしいと思った。

結婚なんて想像みたいに簡単なもんじゃないと思う。苦労もたくさんあって、子供がいるなら尚更大変なことは増えていくんだろうと思う。だけど、それでもその道を真となら一緒に歩んでいけそうな気がする。
いや、一緒に歩んでいきたい、そう思う。

それは俺の自己満足じゃなくて、本気で将来を考えた上での俺の気持ちだ。真となら、喧嘩しても、迷っても、どんな事があっても一緒に乗り越えられる。
本気でそう思うから、俺はこの日を待っていた。俺が真をどう思っているか、これからのことをどう考えているのか、この先も真と一緒にいたいんだっていう気持ちを伝えるために。
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