以心伝心【完】
「なぁ、真?」
俺に寄りかかる真の頭の上に同じように頭を乗せて、話しかける。半分夢心地だったらしい真は小さな声で「んー?」と返事をする。
「俺らって付き合ってどんくらい経ったっけ?」
「なに急に」
どうしたん?と笑う真の手を取って、指を絡める。「今日の圭一、変~」と茶化すように真は言うけど、俺は言葉を続けた。
「記念日にあんまり興味ない真ちゃんだけど、覚えてる?」
「興味ないって・・・もうすぐ2年やろ?」
「知ってるんだ。驚いた」
うるさいわ!と言う真は俺の下でクスクス笑う。
真は記念日に興味がないというより、わざわざ年数をカウントする意味がわからんという真なりの考えだ。
幸せな日々を過ごすっていうことだけで、それだけで十分なのに、それを数字に表して何を意味すんのかわからん、と後藤に言ったことがあるらしく、それをアヤ伝に聞いた時は“真らしい”と納得してしまった。
確かにカウントしなくても、その場にある幸せだけで十分すぎる。わざわざカウントして記録を伸ばそうとするよりも、互いに想いあうほうが大切に決まってる。それが重なれば重なるほど、それに伴って年数も増えていくに違いない。わざわざ期間にこだわる必要なんてなかったんだ、と思わされた。だから、俺達の付き合った日なんて、俺も真も覚えていない。
「またなんでそんな話?」
真は繋いだ手を見ながら言う。
「ちょっとした確認?」
「なにそれ、変なのー」
「変って言うなよ」
「あたしが圭一を好きかどうかの調査?」
「なに言ってんの」
「は?」
「そんなもん好きでいて当たり前だろうが」
どこまで自意識過剰なん?って言いながらも笑う真は俺の言葉通りなんだと思う。
俺も真が大好きで、真も俺が好きなんだ。
口ではああ言っても、心はきっと同じ。だからこうして一緒にいて、家の中にも関わらず手を繋いでる。
真の言うとおり、数字にしなくても変らない気持ちがあればどうだっていい事なのかもしれない。
「真に染まってんのかなー、俺も」
「なにそれ?」
「よく言うじゃん、恋人同士はだんだん似てくるって」
「えー、嫌」
「嫌とか言うなよ」
「だって、あたしと圭一が一緒ってキモイ」
「キモイってなんだよ。普通は嬉しいだろうが」
「嬉しいわけないでしょ。あたしは“圭一”が好きなのに圭一が“あたし化”しちゃったら意味ないじゃん」
そう思わない?と言う真に唖然としてしまう。
サラッと言われた“好き”の言葉もそうだけど、それだけじゃない。なんか、俺の考えを全て引っくり返されていてる。
「似てくるって嬉しくない?」
「何が嬉しいの」
何が、と言われてしまえば答えに困るけど。真が俺に少しでも似てくるなら嬉しいな、と思う。
洗脳とかそういう意味じゃなくて、ただ、考え方とか思考とか、好きなモノとか、他にもたくさんあるけど、共有するものが増えれば増えるほど楽しくなると思うのは俺だけなのか、それとも真が変っているのか、それは世間の声を聞いてみないとわからないけれど、真はそうではないらしい。
「圭一は“圭一”やろ?あたしでも何者でもないやん。それに、違うからこそ楽しいし、違うからこそ知ることもあるやん。相手に染まってしまうのは多少あっても、あたしが圭一に染まることはないね」
なに笑ってんのと言われたけど、「真らしい」と答えるしかなくて、真を抱きしめた。
もしかしたら俺は普通の男で、真は世間から少しズレた次元の女なのかもしれない。
そんな女を彼女にもって、他の女で満足できるはずがない。真以上の女なんて探そうにも探せるわけがない。
俺は真じゃなきゃダメだ。
「じゃあ、俺は一生かけて真を俺色に染めてやる」
抱きしめたままそう言うと真の心拍数が上がったのがわかった。俺だってボーっと2年も真の彼氏をしてたわけじゃない。どんな言葉で真の心臓を揺らせるかくらい、ちゃんと学んできてる。
俺はバカだけど、バカのままで終わらないのがこの俺だ。
耳まで真っ赤にさせた真のこめかみに軽くキスを落とす。真はキュッと目を瞑ってされるがままだ。
繋いだままの手に力が入って、緊張していることがわかる。そんな真を見て、本当は染まらないでいてほしいと思う。
俺に慣れられては困る。慣れは怖いってよく言うし、俺にドキドキしなくなるのはまた大きな問題になるだろう。
変わらないでいてほしいのは俺のほうだ。そう思いながら真を向かい合わせにして、キュッと抱きしめた。グッと腕に力を込めて、深く息を吐いた。
「だから、ずっと、一生、俺の傍にいてほしい」
真の肩に顔を埋めて、返ってくる返事を待つ。
俺のポケットには指輪が入ってる。どんな形であれ、これだけは渡そうと思ってた。
・・・真に反応はない。むしろ、さっきよりも心臓が落ち着いているような気がする。
俺なにか言い間違えた?と不安になって顔をあげると、放心状態になった真がいた。
「真?」
少し隙間をあけて真に声を掛けると、一度も瞬きをしない瞳で俺を見上げた。
手は胸元で握られたまま。口も少し開いたままで、まさに“唖然”とか“呆然”という言葉がピッタリな真の表情。
声を掛けたことでピクリと反応したけど、それからは俯いてしまった。