以心伝心【完】
番外編
graduation
式のあと、お世話になった先生達に挨拶に行って、最後に特に仲の良かった先生の元に向かう。
空き時間は絶対おる喫煙室に近付くと、先約がおるらしく、バカみたいにデカイ笑い声が聞こえる。
「そうやろうな。アイツは絶対考えてないな、―――圭」
この大学内で同名の人はいっぱいいてると思う。
でも、あの話し方や名前の呼び方で先約はあたしのよく知る圭一やとわかった。
じゃあ遠慮することはない。
喫煙室のドアを開けた。
「お、噂をしてれば来たやん」
こっちを向いて話してたから、あたしがドアを開けて開口一番、そう言った。
それと同時に圭一がこっちを向いた。
「終わった?」
「うん」
圭一の隣にバッグを置いて、中からノートを取り出し、ペンと一緒に先生に差し出す。
「俺のサインか?」
「まぁ、そんなとこ。寄せ書き、ちょうだい」
少ない友達にすでに書いてもらったノートの真っさらなページを開いて渡す。
「真に言うことか?特にないけど。あ、あったな!」と、ぶつぶつ喋りながらペンを動かす。
そんな先生を数秒眺めてからあたしの後ろに立ってる圭一に視線を移す。
「待っ…てはないよな?」
「待ってないなら帰ってる」
「…どうも」
「いーえ」
式が終わって一時間も経ってるのに、この喫煙室に座って座談会を開いてるあたり、圭一の優しさが感じられる。
素直じゃないあたしの言葉をサラリと流してくれるのは、あたしが正直に礼を言うのと同じくらい恥ずかしくて、視線を外す。
「あれ、アヤちゃんおったんや」
「うーわ、真ちゃんヒド」
「坂本、出来たぞ!」
アヤちゃんの言葉を思いっきり遮った先生はノートを上下に振りながら「俺の名言だ」と自慢げに言う。
「先生、俺のセリフ遮らないでよ」
「お、文也おったんか!」
ガハハ、と笑う先生に溜息吐く圭一。
アヤちゃんは本気で先生を睨んでる。
卒業してもアヤちゃんと先生のコンビは健在。
シンミリすることなく、相変わらずのノリの良さと弄られキャラで、これが先生の悪い……良いとこやと思う。
生徒に好かれる理由もよくわかる。
そんな先生やから、あたしも好きになったんやけど。
「さすがに可哀相」
ボソッと呟くと「これで最後やからな!」と笑う。
「後藤はこんのか?」
「あー、ごっちゃんなら」
「あとから来るよ」
あたしが説明しようとしたのをアヤちゃんが遮った。
珍しくアヤちゃんの口からごっちゃんの事を聞いたから思わず見てしまう。
「とうとう、お前らもくっついたかー」
先生が安堵の溜息混じりに吐いた言葉にあたしは「は!?」と思わず言うてしまう。
くっついたん?!いつの間に!?と、思わず隣の圭一に尋ねるようにスーツを掴むと「違うから」と言われて、アヤちゃんを見た。
「先生、真ちゃんが完全に誤解したから。俺ら付き合ってないから」
「そうなん?もう、ええんちゃうん?」
「そういう問題じゃないから」
「そういう問題じゃないって、じゃあ、どうゆう問題?」
アヤちゃんと先生が交わすのを遮って、あたしは思った事を口にする。
先生もアヤちゃんも困ったように苦笑するし、圭一はあたしの頭の上に手を置いて、ぽんぽんと優しく撫でる。