以心伝心【完】

途中でアヤを見失い、必死で探したけれど見つからなかった。もう諦めようとしたとき、ふと図書室の窓に人影が映り、アヤのグレーのベストが目にはいった。

椅子に座っている真と、その前に立って真に話しかけているアヤがいた。真はアヤの問いかけを全て無視しているように見えた。泣いても変わらない真の態度とその画に少し笑えた。

歩いて図書室の前まで移動すると、中からはアヤの声が聞こえた。

「ねえ、俺に話してみない?少しは楽になると思うよ?」

真からの返答はなし。

「どうしてこっち見てくれないの?もしかして俺のことウザイとか思ってる?」

返答なし。

「ねえ、真ちゃん」
「ウザイし、キモイ」

真の一言でアヤは両手を机につけて首がうなだれていた。

「シンちゃん可愛いのに。シンちゃんを泣かせる奴が許せないね」

心の強いアヤは懸命に慰めの言葉を言ったんだろうけど、「寒いし、キモイ」とザックリ切られていた。

この台詞で何人の女を落としてきたのかと思うと、なんて単純な女の子たちだったんだろうと思ってしまう。
自分の友人のクソ寒くクサい台詞を聞くと、なんだか秘密を知ってしまったみたいで申し訳なくなったのと、明日から普通に接することが出来るかどうかすごく不安になった。

そんなことを考えている間に椅子の倒れる音が聞こえ、思わず立ち上がって中を覗くと、真の腕を掴んでいるアヤと腕を振り払おうとする真がいた。

「やめぇや!離せ!触んな!」
「シンちゃん、落ち着いて。危ないって!」
「離してよ!触んなって!」

真の顔は泣いて少し赤くて腫れていた。目にはまだ涙が残っているのが遠くで見ていてもわかる。
真の元々の口の悪さと取り乱した状況を見るに見かねてドアノブに手をかけて中に入った。

「アヤ、もう止めとけ。真も言葉汚くなってんぞ」

真は俺が入ってくると同時にアヤの手を振り払い、ツカツカとヒールを鳴らしながらすんごい形相で俺を睨み、すれ違いざまに手をひいて図書室を出た。
図書室を出てから立ち止まりもせず、ずっと前を向いたまま俺の手首を離さなかった。

「真、手が痛いって。ちょっと止まれって」

女のくせにすごい力で俺の手首を掴む真に少し戸惑いながら、状況の把握が出来ていない俺は声をかけた。

「なんでもっと早く入ってこんかったん?!待ってたのに!」

真の言葉にあ然とする。

「アホみたいな顔すんなよ!見えてたから!なんで入ってけえへんかったわけ?!あの状況見たら普通来るやろ?!」

―確かに俺が真の立場なら同じ事を言っているはずだ。
でも、相手はお前だし、ぶっちゃけた話、軽くあしらって出てくると思ってた。それがそうじゃなかったから、俺だって驚いてる。ついでに、アヤより先に真の元に行かなかったことを後悔している。

「私さ、彼氏おってさ」
「・・・えぇ?!え、彼氏?お前、彼氏いたの?」
「そんなびっくりすることないやん。おったの!まあ、さっきフラれたけど」

ルームシェアを始めて3年、真に彼氏がいたなんて一度も気が付かなかった。
本気で驚いた。そんな素振り、一度も見せなかった。

ゆっくり話し出した真は、少し自嘲気味で目に涙を溜めながら、口元に笑みを含んでいた。
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