以心伝心【完】
「待って、はないよな?」
あたしのマネかい。
ニヤリと笑う圭一をキッと睨む。
正門を出てすぐのガードレールで座ってた。
待ってない、と言えば嘘になる。
正直言えば、待ってたわけやし。
「別に待ってないし。別れを惜しんでただけやもん」
「あっそ」
笑いながらも素っ気なく返事する圭一に敗北感を感じる。
地面に置いてたあたしの荷物を拾い上げ、お互いのバッグに入る物は詰め込んで、出来るだけ荷物を少なくする。
それはいいけど、勝手に何してんの?と言おうとした時には、あたしの荷物は圭一の右手にあって。
「はい」
そう言うと、体と左腕の間に隙間を空ける。
手はポケットに突っ込んだまま。
意味がわからんくて、首を傾げると、「ほら」と左腕を動かした。
圭一の左腕をじーっと見て、視線を上げると「おいで」と招く。
どうやら腕を組みたいらしい。
あたしに腕を持てと言うてるらしい。
だから荷物を持ってくれたらしい。
緩みそうになる頬に力を入れて、ゆっくり近付く。
そっと腕に手を置く。
「もっと、こっち」
置いた手を圭一に引っ張られて、圭一との距離が近くなる。
肩と肩が触れ合って、「うん、これで良し」と満足げな声が近い。
お互いスーツ姿やのに。
しかも、あたし手ぶらやのに。
周りから見たら、嫌な女にしか見えんやん。
それを圭一はわかってやってるんやろうか。
「にやけんなよ」
「?!」
思わず顔を上げると、ちゅ、と触れた唇。
「な、な、なに!?」
「真っ赤~」
カーッと顔が熱くなってくのが分かる。
俯いて、空いてる左手で頬を抑える。
最悪。
外でキスするとか、ありえへん。
今日の圭一はどうかしてる。
卒業式やから?
いや、それやったらキスする意味がわからへん。
「なぁ、真」
腕に置いてたあたしの手をスッと離したかと思えば、今度は指を絡めて恋人繋ぎ。
・・・こっちの方が照れる。
繋いでるだけなら最初は恥ずかしいけど、直に慣れる。
圭一はそれを知ってか知らずか、手を繋いだまま親指であたしの手を撫でる。
それが一番恥ずかしい。
今もそう。
キュッと握った手はそのままに親指だけがあたしの手を撫でるように左右に動いてる。
恥ずかしいやら、こそばゆいやからで何とも言えん。
それでも、それを心地好く感じてしまうあたり、圭一色に染まってるんやろう。
そんなことを考えて隣の圭一を見ると、あたしを見下ろしてた。
自分に向けられてて、それを自分で言うのは自惚れかもしれんけど、圭一はあたしにしか見せん、ほんまに優しい表情で笑ってる。
愛おしげに見るその表情に、あたしまで釣られて微笑んでしまう。
あたしはこの人に好かれて幸せ、って感じる。
「なに?」と返事をすると、「あのさ、」と一言置いた。
「前も似たようなこと言ったけど、働き始めても、一緒に住まない?」
「・・・うん?」
「うん?って何?」
一瞬、言うてる意味がわからんくて、首を傾げてしまった。
「いや、ううん」
「え、それが返事?」
いや、違う。
そうじゃない。
そうじゃないけど、そういう意味じゃない。
なんていうか、なんていうか、そうゆう風に言われるとは思ってなかった。
「もしかして…嫌ってゆう意味?」
「違う。そうじゃない。そうじゃないけど」
「けど?」
「そう言われると思ってなかった」
そう言うと、予想通り「どういうこと?」と返ってきた。
イエスかノーの返事が欲しい圭一にしたら、わけのわからん返事やろうと思う。
でも、あたしだって驚いてる。というか、予想外で戸惑ってる。
多少の不安も感じてるくらい。