以心伝心【完】
確かに始まりはどうであれ、結果的にはこうして恋人にもなって、恋人のまま卒業も迎えられて、そして、現在。
たった数ヶ月の恋人生活でも、それはこれからも続いてくわけで、それは変わらん事で、そうなることが当たり前に思ってた。
―――つまり、
「あたしはそのつもりでおったんやけど」
見上げた圭一は目を見開いて、一瞬驚いたと思ったら、目尻いっぱいにシワを作って笑った。
そして、圭一の匂いでいっぱいになった。
あたしの大好きな香水の匂い。
「マーキングみたい」
抱きしめられた腕の中で、ふと思う。
「なにが?」と聞く圭一の胸に擦り寄る。
「自分の好きな香水を付けてもらうって、マーキングみたい」
「真からの唯一の束縛だね」
・・・そう言われると恥ずかしい。
“唯一”って言われると、いつも圭一を放置してるみたいで、好きじゃないみたい。
それに唯一の束縛がマーキングって一番タチ悪い。
顔を上げると圭一は微笑んでて、またギューッと抱きしめられる。
頬や耳にに圭一の髪が当たってくすぐったい。
あたしも圭一の背中に腕を回して抱きしめた。
ずっとこのままいたい、そう思えた。
全くあたしらしくない。
抱きしめる腕を強めた。
「なぁ、真」
抱きしめる腕が緩んで圭一があたしの顔を覗き込む。
「貯金ちょっと崩して、もうちょっと広いところ、探そうか」
「うん。お互い働くし」
そう言うと、真っ赤な顔して反らされた。
「どうしたん」
「・・・別に」
「だって」
「うるさいって」
言いかけて開いたままの唇を塞がれる。
真っ赤な顔したままばつが悪そうに荒くキスするから、思わず顔が緩む。
「真のくせに余裕いっぱいだね」
真っ赤な顔して言うても迫力ないし。
つか、外で何回キスしてんだって話。
・・・恥ずかしい。
「はい、はい。家帰ろう」
両手で圭一の胸を押して距離をとり、圭一の左手を自分の右手に絡ませる。
「帰るでー」と圭一の手を引く。
いつもは引っ張ってもらうけど、今はあたしの手が上で圭一を引く。
それも悪くない。
「こら、こうじゃないとダメだから」
気分良く歩いてると、あっという間に追い越されて、上に置いてたあたしの手も瞬時に下に変えられる。
「ダメだ」って何が“ダメ”なんかわからんけど、まぁ…どうでもいい。
どうせなら引っ張ってもらうほうが好きやし。
「やっと追いついた!」
半歩前を歩く圭一の隣に並ぼうと小走りにしようとしたとき、背後から馬鹿でかい声が聞こえた。
聞き覚えのある、というか、確実にそうである声に振り返ると、振袖の裾を上げて走るごっちゃん。
その遠く後ろを呆れたように付いて歩くアヤちゃんがおった。
「ちょっと、堂々と手繋がないでよ~あたしに対する嫌がらせ?」
「いや、違うから。ね、って、圭一。ちょっと?」
あたしと圭一が繋いでる手を見てニヤニヤするごっちゃん。
からかわれるのが嫌で手を離そうとしたけど、逆に繋ぐ手を強められる。
「見せつけてくれるわねー」と言われてニヤニヤする圭一はわざとなんやろう。
コイツもあたしをからかってる。
「アヤ」
手を繋いだまま、ニヤニヤした顔でアヤちゃんを呼ぶ圭一。
あたしとごっちゃんは同時に視線をアヤちゃんに移した。
呼ばれたアヤちゃんは顔が引き攣ってる。
何事かと思って圭一を見たけど、視線はアヤちゃんに向けたままで、「ほら、絶好のチャンス」と何かを促す。
「いや、圭ちゃん」
「なんだよ」
「今じゃなくても」
「今が最高のタイミングだと思うけど?」
「いや、だって」
「今じゃなきゃ、いつすんの?」
このやりとりの意味がわからん、あたしとごっちゃんは顔を見合わせて首を傾げる。