以心伝心【完】
アヤちゃんが何かするってこと?
視線を感じて振り向くと、アヤちゃんがあたしを見てる。
思わず後ずさりすると、圭一が笑う。
「ほら、言えば?」
クッと笑う圭一に下唇を噛んで悔しさを表すアヤちゃんは舌打ちをして、意を決したように短く息を吐いて、近付いてきた。
眉間にシワを寄せて、でも口元の緩い感じとか、目尻が下がってる感じが、なんか怪しい。
極めつけは、この悪寒。
パッと圭一が手を離す。
「真ちゃん」
近い。
かなり近い。
多分、今までで一番近い距離におる。
「はい?」と言う声も裏返る。
悪寒からか、無意味な緊張からか、胸がドキドキし始める。
先の読めん展開に心臓が早まる。
「あのね、ずっと言いたかった事があるんだ。この機会に言わせてほしい」
いつものようにふわりと笑って、
「真ちゃん、大好き」
―――なぜか、抱きしめられた。
「………」
「………」
「………」
まさかの自体に、あたしも圭一もごっちゃんも唖然。というか、
「おい」
「・・・なに?」
「何やってんだよ」
―――“怖いもん知らず”とは、この人を指すんかもしれん、と思った。
あたしの背後におる圭一の表情は見えんけど、声色からして怒ってるのはわかる。
それでもアヤちゃんはあたしから離れる気配無し。
「なに、って…ハグ?」
悪びれる事なく、圭一の反応を楽しむような口調で、笑う。
「それをする必要がどこにある」
「だって、最初で最後でしょ?」
背後からチッと舌打ちが聞こえた。
自分から促しただけに、あかんと言えんのが悔しいらしい。
その証拠にアヤちゃんがあたしに抱き着いたままでも剥がそうとせえへん。
さすがに、あたしも冷静になる。
なんの冗談やねん、て思うし、トキメキ感が全く感じられへん。
しかし、このままの状況は、ごっちゃんの為を思うとよくない。
まさか本気に取るとは思えへんけど、ごっちゃんやから、わかれへん。
「離れて」と胸を軽く押すと簡単に離れた。
おろした手は背後から掴まれ、あっという間に圭一の胸の中に収まった、あたし。
アヤちゃんは「最初で最後のハグなのに短いってー」と笑う。
それで確信する。
アヤちゃんは圭一で遊んでる。
てか、最初の告白から気付けよって話。
あたしとしたことが圭一と同じでまんまとハマってしまった。
「度が過ぎるだろ」
「圭一がしろって言ったんじゃん」
「だからって」
「俺の“告白”は、こうするんだよ」
アヤちゃんの策略が見えて思わず含み笑い。
圭一にバレんように声を抑える。
さらに笑ってる顔が見えんように手を背中に回して、ギューッと抱きしめる。
ただ笑いを堪えてるだけやけど、圭一からすれば、アヤちゃんのハグが嫌やったように見える。
アヤちゃんはあたしの考えに気付いてるんやろうか?
顔が見えんからわからん。
圭一はあたしを抱きしめて、深く溜息吐いた。