以心伝心【完】

「あれさ」
「ん?」

タバコを直したせいで手持ち無沙汰になった両手をポケットに入れて歩くアヤちゃんに問うてみた。

「アレ、アヤちゃんの好きな形やろ」

ごっちゃんを指差し、アヤちゃんの顔を見る。

「っ・・・ごほっ。いや、違うから」
「むせるとこが怪しいー」

違うから!と言いながらも、ごっちゃんを見る目が非常~にヤラシイ。

「アヤちゃんキモイー」

あたしの言葉の意図がわかったんか、キモイ言うな!と叫ぶアヤちゃんの顔は寒さだけじゃないほど真っ赤で意外と可愛かった。

「アヤちゃん可愛いー」

可愛い言うな!と言いながらも、手招きするごっちゃんの元に足早に向かい、肩丸出しのごっちゃんに自分が着てたジャケットを脱いで着せる。

最初は手を振って断ってたごっちゃんもアヤちゃんの勢いに負けて腕を通す。
真っ赤になって恥ずかしそうにアヤちゃんのジャケットを握るごっちゃんが可愛くて、自然に笑顔にさせられる。

少し気になってバッグから携帯を取り出すけど、何の連絡も無し。
多分、まだ寝てるんやろう。

疲れてるんやからしょうがないけど、アヤちゃんとごっちゃんの仲を見せつけられたら妙~に寂しくなる。
別に隣にいてほしいわけしゃないし、いうほど寂しくないけど。

無意識に吐いた溜息は白く、数秒経つと消えていった。
店の周りには数軒の家が建ち、塀や玄関にはイルミネーションが飾られてる。

うちの部屋にも小さいけどクリスマスツリーを3日前くらいに出した。
飾りは全部あたしにさせてくれて、「どう?」って聞いたら「いいんじゃない?」って笑ってくれた。
それだけで幸せやなぁ、て思えた。

「寒いし・・・」

温暖化で暖冬になったって言われても冬は寒い。
うん、非常に寒い。
それにあんなん見せつけられたらよけいに寒い。

寒いっていうか、寂しい?

「身体冷やすな」

突然首元に巻かれたマフラーと、ふわっと匂う香水と温もり。
後ろから回ってきた手に両手を包まれて冷たかった手がじわーっと温もりを吸収し始める。

「なんだ、この冷たい手」

暖かいカッコしろって言っただろ、と怒り気味やけど背後から抱きしめられる温もりに自然と口元が緩む。

「怒ってる?」
「当たり前」
「起こしたで?」
「“起こした”っていうのは、相手が身体を起こして初めて“起こした”って言うんだよ」

相変わらず理屈っぽい圭一に苦笑する。
多分、起こされんかったことが気にくわんくて不機嫌なんやろう。

「いつ起きた?」
「真が出て行くドアの音」

素っ気ない言い方にまだ怒ってるのがわかる。

「アヤが迎えに来てた」

見てたんかい、とツッコミたくなるけど、そこはまぁいい。

「ごっちゃんに電話したらアヤちゃんが来てくれたから」
「エスコートにニヤニヤしやがって」

嫉妬にもとれるくらい背後からギュッと抱きしめられて、思わず笑ってしまう。

付き合って3年以上経つのに嫉妬って、それもどうなん?って思う。

変に安心されるより嬉しいけど、相手はアヤちゃんで、お互い付き合いは6年近くなるのに。
そういうとこが好きなわけやけど。

「コレも俺に黙って買っただろ」

握ってた手を離してスカートに触れる。

「丈はいいけど、こうゆうのはボディーライン出るからダメって言ったじゃん」

どこから出してきたのか、この前一緒に買いに行った大判ストールを差し出して、「絶対コレ身につけてて」と手渡し、あたしの手を引いて店に向かった。

ごっちゃん達はすでに店に入ってて、もういてなかった。


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