以心伝心【完】

手を繋いだまま入店したあたし達を見て久々に会う仲間の冷やかしの声が響く。
大学の友達がほとんどで、同棲してるのも全員知ってるはずやのに、この冷やかしよう。

すでにパーティーは始まってるようで、ほぼ全員が酒に飲まれた状態。

「フライングしちゃったのよ~」

もう毎年の恒例行事やから参加者が手伝いの為に早めに集まってくれて、準備が早く出来てしまったらしい。

あとは店のマスターだけやったんやけど、知り合いのマスターも手伝いの為に早く来てくれて、パーティーは1時間前に開始されたらしい。
つまり、時間通りに来たあたし達は1時間遅れで、電話したときに“忙しい”って言うたのは開始して間もなかったからってこと。

とりあえずコートを脱ぎ、圭一に素早く渡されたストールを巻いて、冷やかしの声に軽く返事を返しながらカウンターに座り、隣の席に荷物を置いて溜息を吐く。

「いらっしゃい真ちゃん。何飲む?」

いつも4人で会う時に必ず来るバーやから名前も顔もお馴染み。
お酒の好みも全部知ってるマスター。
優しくて、女の子の扱いも上手で、同じくらい男にも合わせるのが上手い。

歳は28歳で一児のパパ。
この仕事をしてるから子供との時間もあって幸せらしい。

「何飲む?って、お酒はあかんねやろ?」

ここ1ヶ月ほど、あたしはお酒を飲ませてもらえてない。
ごっちゃんから始まって、アヤちゃんも圭一も「絶対ダメ」って言い張って一切口にさせてくれん。

最初はごねてたけど、何言うても無理やから諦めた。
だから最近はずっとソフトドリンクだけ。

「真ちゃんの好きなジュース買ってきたから」

宥めるようにグラスに入れて出してきたのはクランベリージュース。

あたしが来るようになってから買い足すようになったって言うてたクランベリージュース。
そのまま飲むのも好きやけど、カクテルで飲むのが一番好きやのに。

「まぁ、いっか」

そう言いながら口をつけるとマスターは嬉しそうに笑う。

一児のパパでもこの笑顔にやられるのは可愛いせいやと思う。
背後では酒に飲まれてテンションの上がりきった仲間がいて、毎年変わらん風景がある。

こうして毎年集まって、久々で積もる話もあって、日頃のストレスも発散して、これを機に年始で揉めるカップル。

全てがいつも通りやのに、あたしだけが違う。
何が違うって、一言で言い表せんくらいある。
今ここで皆と盛り上がれんのもそのひとつ。

“はしゃいで跳びはねるのはダメ”
“食ってもいいけど酒はダメ”
“食い過ぎは太るから程々に”

お前はあたしのおかんか!て言いたくなるくらい事細かに注意を受けた昨日。
ごっちゃんからも電話が来て、同じことをくどくど言われた。

理由はわからんくても、そこまで言われたら守るしかないから、こうやってマスターと話しながらクランベリージュースを飲んでるわけやけど、全然楽しくない。

< 89 / 104 >

この作品をシェア

pagetop