以心伝心【完】
「ほんと真って綺麗になったよねー」
「確かに、あぁなるとは思わなかったわ」
「それよりアイツらがくっつくとは思わなかったけどな」
「超仲悪かったもんな!」
「やっぱ男と女が一緒に住めば、人間の性ってヤツで、やるこたやっちゃうんだよ」
黙って聞いてりゃ好き勝手言って、一番最後のは聞き捨てならん。
別に人間の性でこうなったわけじゃないし、最初の3年は全く何もなかったし。
やることやるようになったのも、ここ2年くらいやし。
……そんなこと、どうでもいいけど。
「マスター、やっぱりお酒飲んだらあかん?」
お酒の勢いで心に閉まってた本音を好き勝手言うのは別にいいけど、それをシラフで聞くのは正直しんどい。
友達やし、こんな日やし、文句を言うにも言えん。
だったらあたしもお酒の力で心を大きくしたいってのは間違ってないと思う。
ちょっと上目遣いで両手を合わせて頼んでみてもマスターは「ダメ」の一点張りで出てくるのはクランベリージュースかオレンジジュースかピンクグレープフルーツジュース。
もうただの嫌がらせにしか思えん。
「次ジュース出したらマスター嫌いになる」
空になったグラスを渡して睨みをきかす。
マスターだって聞いてるし、その意味がわからんわけない。
「それは困るなー。でも約束だから」
そうやって一切笑顔を崩さんマスターに勝てるはずもなく、出されたオレンジジュースに口をつける。
「マスター、酒飲ませてない?」
奥でアヤちゃん達と盛り上がってた圭一が酒の飲めないあたしを一時間も放置してノコノコとやってきた。
「あれ?圭一、お酒飲んでないん?」
そんなにお酒に強くない圭一が一時間もお酒を飲み続けてたら顔を真っ赤にしてるはずやのに、今日は全然何ともなくて呂律も滑舌もいい。
「お前が飲めないのに俺が飲むわけないだろ」
もし、圭一が彼氏ではなく、ただのルームメイトなら「別に気遣わんくていいのに」って言うてた。
でも“彼氏やから”かもしれんけど、その言葉にキュンとする。
“飲めない”じゃなくて、“飲むわけない”って言うてくれたことが嬉しい。
ほんまは飲みたいのに、あたしに飲むなって言うてるから自分も飲まんってゆう優しさが嬉しい。
頭の上に乗せられた手に、それだけにキュンとする自分が恥ずかしい。
恥ずかしさに俯いてると圭一は隣に腰掛けて「クランベリージュースってあるの?」と同じジュースを頼んだ。
「あれー?2人で座ってるなんて見せつけてくれるじゃなーい」
酔っ払いは片腕にアヤちゃんを連れてて圭一の反対隣に掛けた。
アヤちゃんは片手を顔の前に上げてごめんな、と申し訳なさそうに口パクで謝った。