以心伝心【完】
お酒の飲めないあたしに本気の嫌がらせをするつもりらしいコイツは、あたしの方を向いてグラスの中のカクテルを口に運ぶ。
あたし飲めんのに、酔っ払いめ。
「そんな怖い顔しないでよぅー。しょうがないのよぉ?あんた一人の体じゃないんだからぁー。ねぇー圭ちゃん?」
あははー!と笑う酔っ払いの言葉にあたしの思考は止まる。
というよりかはアヤちゃんと圭一の反応に思考を一時止めざるを得なくなった、って感じ。
“圭ちゃん”って呼んだのはまぁいい。
でも圭一とアヤちゃんは全く同じ反応で、酔っ払ったごっちゃんが口走ったあと、目を見開いてあたしから目を逸らした。
何も見てない、聞いてなかった、とでも言うように無反応を装った。
そんな反応されたら考えんわけない。
「ちょっと、どういうこと?」
隣の圭一の肩を掴み、無理矢理顔を向かせるも、目線は合わそうとせんし、口を開こうともせん。
それはアヤちゃんも一緒で、どうやら酔っ払いに吐かせるしかないらしい。
「ごっちゃん、どうゆうこと?」
アヤちゃんに絡んだ手を剥がして、焦点の合わん相手に詰め寄ると「やだ、怖ぁぁぁい」とクネクネしながら話し出した。
「だって最近太ったって言ってたじゃない?しかも、なんか体調すぐれないって、んんっ?!」
スラスラ話し出すごっちゃんに痺れを切らしたアヤちゃんが後ろから口を押さえて止めた。
それが納得出来んあたしは圭一の胸倉掴んで睨む。
それでも目線は合わんくて、最終的にはマスターに止められる始末。
納得いかんけど、ごっちゃんの言葉を反芻して考えてみる。
最近太ったのは確か。
体調が優れんっていうのも確か。
優れんっていうか、眠いって感じやけど。
でも食欲はあるし、病気もしてない。
お酒もここ一ヶ月飲ませてもらえてないし、夜遊びもここ最近はしてないから原因すらないのに。
「最近、生理きてるぅ?」
生理?
……なんで生理?
「だってぇー、このままじゃ圭一くんが可哀相なんだもーん」
バカ!と小声で言うたアヤちゃんに一抹の不安感。
確かに生理は今月来てない。
毎日忙しくて、何かと大変で気にするヒマもなかった。
お互い残業続きで寝るタイミングも違って休みもろくに合わないし、体調が悪くても当然の生活を送ってた。
圭一はやっぱり目を合わせてくれんくて、また不安感。
はっきりとした答えはなくとも、ここ1ヶ月の3人の行動と言動を考えたら納得することは多い。
今日のアヤちゃんのエスコートにしても、ごっちゃんと圭一の前日の電話にしても、あたしの体調を考えてのことやとしたら全部筋が通ってる。