以心伝心【完】
ほんの数十分前、文也くんから電話が来て、あたしを誘う圭一の態度にキレたあたし。
今日は圭一の誕生日でルームシェア最後の誕生日やから祝ってあげたいって思って手料理も腕を振るってケーキも焼いて、最後はごっちゃんと文也くんの協力を得て、圭一行きつけのお店でバースデーパーティーするっていう計画やった。
そう、計画。
計画やった。
あたしの中ではその計画は着々と遂行できて、今頃はみんなと合流してワイワイ騒いでるはずやった、のに。
「ちょ、ちょっと!!!」
「なに」
「なにって!調子のんな!!」
さっき「好き」って言わんかったらキスするって言われて、優位に立って明らかに調子のってる圭一にムカついてキスしてやったらこの始末。
「さっきは真からキスしてくれたのに」
それがさらに調子づかせたらしく、簡単に膝の上に乗せられたあたしはキス魔に変身した圭一の暴走を止めるのに必死の状態。
正直、こんな男やとは思わんかった。
両腕を使って、圭一の胸と顎を押すけど、それでも迫ってくる圭一に自分の顔を左右に避けて逃れ暴れてる。
「なんでそんな嫌がるの」
スッと力が抜けて圭一があたしの両腕を掴んだ。
特に触れる程度の力やったから安心した。
想い合えたからって、途端にこんなストレートに表現されると心臓がもたん。
ちょっと前まで気付かんかったけど、圭一の香水があたしの大好きな香水に変わって、傍を通り過ぎたり抱きしめられたりすると心臓バクバクして落ち着かん。
匂いフェチ?とか考えたけど、そうじゃなくて、この香水を圭一が付けてるからそうなるんやって気付いた。
だから今のこの状況もあたしとしては非常にキツイ。
顔も心臓もヤバイ。
ヤバイどころじゃない。
だって、圭一がずっと笑ってる。
「・・・なによ」
「別に〜」
ムカつくから文句言う前に部屋に戻ろう。
懸命な判断をしたあたしは目の前で笑ってる圭一の腕の中から出て、無言で部屋に入った。
心臓がバクバクしてるのがまた落ち着かん。
前はこんなことなかったのに。
自分の気持ちに気付いてもこんなことにならんかったのに。
多分それは圭一にその気がないってわかってたからそうならんかっただけであって、圭一も同じ気持ちってわかった今となっては対処の仕方がわからん。
「大丈夫かな…」
これからの自分が不安になって呟いた。
結局、約束の時間から1時間オーバーしてるけど今から行ってもええやろ、と思ったあたしはパーティー用に買ってたベアトップのワンピースを着るためにクローゼットを開けて、掛けてあったそれを見つめてひとつ溜息をこぼし、着ているブラウスのボタンに手をかけた。
「俺の目の前で生着替え?」
俺、我慢できるかな?と背後で楽しそうな声が聞こえる。
振り向くとニコニコ笑ってる圭一がドアに寄りかかって、あたしを見ながら自分の胸元を指さしてる。
あたしは自分の胸元を見下ろすとブラウスのボタンが全て開いていて白のフリルがついたブラが丸見え状態やった。
「あれ、俺って誘われてんの?」
そう言って近付いてくる圭一に嫌な予感がして、じりじりと後ずさりながらブラウスのボタンを必死で留めようとするけど、焦りのせいか一つも留められへん。
あっという間に壁に追いやられて、目の前には超笑顔の圭一がおる。
「これ、着んの?」
顔はあたしに向けたまま、左の人差し指だけがワンピースを指してる。
「き、着るけど…」
好きじゃなかった?と思ったけど、そうではなかったと、すぐにわかった。