湯けむり恋奇譚
きつねの嫁入り



夏の香りがする。


由香は猫五匹くらいすっぽり収まってしまいそうな大きなカバンを抱えて、電車に揺られていた。



昼下がりの日曜日。

乗客はまだらだ。


車窓の外を流れていく街の景色をながめつつ、重いため息をつく。


(これから、どうしたらいいの……)


彼女は一時間ほど前にある失敗をしでかして、勢いのまま家を飛び出してきてしまったのだ。

そして気づいたらこの電車に乗っていた。


どこに行くあてもないまま、できるだけ遠くに行こう、いや、逃げよう。

そう思って飛び出してきたはいいものの、女子大生の財布の中身なんてたかが知れている。


泣いて家に戻るのも、そう遠くはないだろう。


(だってだって、まさかあんなことになるなんて思わなかったんだもの!)


窓ガラスに映る自分の顔に目をやる。

生まれつき色素の薄い、肩まで伸びた髪をハーフアップでまとめている。


美人でもないけれど、可愛くないわけではない。

とにかく特徴のない普通の顔立ちをしている。


どこからどう見ても、いい子ちゃん、という感じだ。


ずっと優等生で通してきた自分が、まさかこんなことをするなんて。

捜索願いでも出されたら、由香の積み重ねてきたイメージが一気に崩落してしまう。


いや、もう家出をしてきた時点で終わりか。


今後のことを思うと、また気分が落ち込んできた。


由香はまた逃げるようにカバンに顔を埋め、そっと目を閉じた。




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