湯けむり恋奇譚


「ひゃっ!」


驚いて見ると、いつのまに買ったのか、彼が由香の頬に牛乳瓶を押し当てていた。


「はい。喉、乾いているでしょう?」


微笑みながら牛乳のたっぷり入った瓶を、由香にくれた。


「あ、ありがとう……」


受け取りながら、ちょっとドキドキしてしまった自分がいる。

由香はかっこいい人に弱く、ちょっと気を許すとすぐに心を持って行かれてしまうから。


蓋を開けながら、牛乳を一気に飲み干す彼を観察した。


由香より年上なのは見て明らか。

少し伸びた髪と眼鏡はちょっとダサいけれど……


顔立ちは悪くないようだから、少し工夫をすれば雰囲気イケメンになれないこともないはず。

いやしかし……さっき見た……見てしまった、体は彼のイメージに似合わず、結構いい感じに引き締まっていたような。


なんてよからぬ思いに気をとられている間に、相当喉が渇いていたのかもう一本牛乳を買ってきていた。

彼は少しだけ口をつけると、テーブルに置いた。


「俺は温泉が好きで、よくこうして一人で温泉めぐりをしているけど、君も温泉が好きなの?」


「えっ」


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