湯けむり恋奇譚
ぎくりとして肩を揺らし、ごにょごにょと言葉を濁す。
「その、ちょっと一人になりたくて……」
「なるほど」
恥ずかしくなって、置いたままにしていた牛乳を慌てて手に取って、口をつけた。
彼が、あ、という声を出したのに気付いて何だろうとは思ったけど、目を瞑って一気に飲み干した。
ふうー、と言いながら空になった瓶をドンと置くと、彼が由香をじっと見ていることに気づいた。
首を傾げると、彼は実に言いにくそうにしながら由香が飲み干したばかりの牛乳瓶を指さす。
「それ、俺の」
「!!」
嘘!
サーッと血の気が引いた。
そういえば、瓶は左側に置いていたような。
「ご、ごめんなさい!」
さっきから謝ってばかりだ。
飲んでしまった彼の牛乳の代わりに自分の牛乳を差し出す。
これはまだ口をつけていないから安全だ。
彼は素直に受け取りながら、あわてふためく由香を見てけらけらと笑った。
もう、嫌だ。