ショコラの気分でささやいて


「ずっと考えてた、なにが最善か」


「そう……」



唐突に始まる彼の話は、いつもながら先が読めない。

これまでも、私が彼の言葉を補いながらふたりの会話が成立してきた。

けれど今夜は、彼を責めるように一方的に言い放った。

だから、いつも以上に私に話しにくいのだろう。

沈黙が長い。



「ぜひ来て欲しい、力を貸してくれと言われた」


「九州支店の立ち上げメンバーに選ばれて、嬉しかったでしょう」


「うん。自分を必要としてくれる人がいる、そう思ったら、なんていうか」


「力を認めてもらえるのって、男の人にはたまらないでしょうね」



黙ってうなずき、グラスの水で唇を湿らせて、彼はまた口を開いた。



「本社に戻るつもりでいた。牧野のお父さんにも約束したとおり、本社に戻って落ち着くつもりだった。

だけど、向こうで力を試したいと思ったら」


「福岡に行きますって返事をしたんだ」


「うん」



言葉をつなぎながら彼の気持ちを汲み取ってきた4年間、何とかうまくやってきた。

これからもこの関係を続けたい。



「だから考えた、牧野が2年待てないのなら、どうしたらいいか」


「で、答えが出たの?」


「籍を入れよう。牧野がときどき来てくれればいいから」


「ちょっと待って、私はこっちに残れってこと? どうして」


「牧野のお父さんを残していけないよ。俺はひとりでもなんとかやっていけるけど、お父さんはそうじゃないだろう」



転勤後、ひとり残される父のことを考えて ”2年待ってくれ” の言葉になったのか。

そんなことまで考えてくれていたなんて……

思わず涙が一気に溢れだした。

顔を覆って涙を防ごうとしたけれど、どこからわいてくるのか涙の雫は止まらない。


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