鐘守りの少女と夢見る王子
エリアルは、最近塔のまわりに訪問者がいることに気づいていた。
ワイン色の髪をした、自分とそれほど年もかわらないくらいの少年。
一番初めに彼を目にしたとき、彼は王子様と呼ばれていた。
あの人がこの国の王子様……未来の王。
なぜそんな人が、隠れるようにしてこんなところに足繁く通うのだろうか。
いや、自分には関係のないこと。
自分はただ鐘を鳴らすことに集中しさえすればいいのだ。
エリアルは気をとりなおして鐘を鳴らす。
エリアルが鐘を鳴らすことで、この国の人たちの穏やかな生活を守ることができる。
もちろん、エリアルの家族のことも。
「お母さん……お父さん……リゼット……」
街に残してきた家族のことを思い出しながら、鐘に力を注ぐ。
皆が幸せだったらそれでいい。
皆のために、自分にしかできないことを精一杯やり遂げられたら、それだけで幸せだから。