鐘守りの少女と夢見る王子
鐘守りの少女
しんしんと雪の降り積もる寒い冬の早朝。
まだ寝静まっている街を母親に手を引かれて歩くのは、黒い髪の幼い少女。
彼女たちは地面に足跡を残しながら暗い表情で歩き続け、やがて王宮の前で足を止める。
「エリアル……」
大きな門の前で母親はエリアルの前に膝をつき、彼女の小さな手を取る。
「ごめんなさいね。王様がどうしてもあなたを欲しいとおっしゃるの。それに、家にはもう……」
エリアルは少しだけ笑顔を作って、首を横に振る。
「いいの。わたしは大丈夫だよ」
健気にそう話す娘に、母親は涙を浮かべた。
親子の到着に気づいてすぐにやってきた王の使いがエリアルを王宮の中へ連れていく。
大きな門が閉じてしまっても、母親は涙を流してその場にしばらく立ち尽くしていたが、やがて雪の中を1人戻っていった。