鐘守りの少女と夢見る王子
「王子様ー! マクベス王子様! どこにいらっしゃるのですかー!」
数学の教師であるロイドが叫びながら通り過ぎていくのを、マクベス王子は木陰にじっと身を潜めてやり過ごした。
やがて彼の姿が見えなくなると、ほっと息をついてその場を離れる。
彼は学問になど微塵も興味がなく、机に向かっているのが嫌で、ロイドがマクベスの落とした本を拾っている隙に窓から部屋を抜け出してきた。
「こんなに天気がいいのに、勉強なんてやってられるか」
マクベスはそう吐き捨てながら足を進めるも、辺りは見慣れない建物に囲まれている。
どうやらロイドから逃げているうちに、いつもは足を踏み入れない場所まで来てしまったらしい。
ついでだから散策してやろうと少し足を止めて辺りを見回したとき、ちょうど鐘が鳴り響いた。
「昼か……」
この鐘は毎日正午に鳴る。
讃美歌のような美しい音色を、国中に響かせる。
一度鐘をこの目で見てみたくて側まで行こうとしたことがあるが、一部の者しか立ち入ることを許されておらず止められてしまった。
「……」
鐘の音に聞き入っていたマクベスは、企みの表情を浮かべて足を踏み出す。