悠久のシャングリラ


それもそうだと思う。

化け物がいないということは、
欠片も見つからないということで……。

欠片が見つからないということは、
この館から出られないということだから。


「あ、そういえば、
この館の玄関や窓から
逃げられないんでしょうか?」


どうしてこんな、
当たり前の考えに至らなかったのか。

自分でも不思議になりながら、
桜に問いかける。


「無理だよ。 窓に鍵はないのに、
内側にも外側にも開かないんだ」

「うん。 おれも確かめたけど、
玄関の扉も分厚くて、びくともしなかった」

「……そう、なんですか……」


欠片が見つからないなら、
自力で逃げる方法を考えればいいだけ。

そう思ったのに……。

退路を絶たれた気がして、この館の闇が、
一層濃くなったように感じた。

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