悠久のシャングリラ
存在するはずのない者
ーーコツ、コツ、コツ。
ーーコツ、コツ、コツ、コツ。
ーーコツ、コツ、コツ、コツ、コツ。
足音がやけに響く廊下を、
一人の男が歩いていた。
物語を書くことを趣味とし、
様々な世界を巡り歩いている男。
だが、決して存在してはいけない者。
存在するはずのない者。
この館にいる少年少女は、
彼を【クイナ】と呼んでいた。
クイナはあることに気がつき、
ふと足を止め天井を見やった。
その先にあるものに、
面の下の目を細める。
「想いが強い蛍たちだ。
こちらがその光にあてられてしまうよ……」
蛍は、彼らに【絆】が生まれた証。
強いその【想い】が、
あの淡い蛍光を生み出したのだ。
そして、廊下からお面が消えたのは、
彼らを監視する必要性がなくなったから。
彼らがーー、
自らの足で立てると判断されたからだ。
それは言葉だけで受け取ったら、
とても大きな進展で嬉しいことなのだろう。
それが本当にいいことなのか、
悪いことなのかはーー。