悠久のシャングリラ


はじめに、
一歩前に出たのは……桜。


「あの二人の子どもは何なの?」

「二人の子ども……。 ああ、あれか。
そうだな。 言ってしまえば、
彼らは人間ではない、別の【何か】だ」

「なにかって?」

「質問は人数分だと言ったよ?
つまり、一人一つだ」


押し黙ってしまう桜を見て、
今度は鈴蘭が前に踏み出た。


「なら、オレが聞いてやるよ。
それならいいんだろ?」

「ああ。 きみたちから見たら、ーーー神。
そういうのが正しいだろうね」

「神って……あの神様かぁ?
あんなの、想像上のもんだろ?」

「わからん。
だが、クイナが嘘を言っているとも……」


みんなが話している間に前に出たのは、
鳳仙だった。


「この館にいる、あの化け物は?」

「あれは、きみたちが来たことによって
生まれた【歪み】だよ」

「歪み……? 歪みってーー」

「学習しないね。
質問は、一人一つだけだよ」


呆れた風に肩を竦めたクイナに向かって、
今度は睡蓮が前へと足を進めた。


「……ボクの質問、使って……。
歪みのこと……教えてよ」

「この館にとって、きみたちは異分子。
本来いてはいけないところを、
無理矢理留めさせられているんだよ」


藤が何かを思い至ったように、顔を上げた。


「それは、もしかして………
館の主、のことなのか?」

「そうだよ。 きみたちがここにいるのは、
それを【主】が強く望んだから。
……そして、ーーが逃げてきたからさ」


最後の呟きは誰に聞かせるような響きはなかった。

どちらかと言えば、独り言のような……。

そこをあえて聞くことはせず、
私は沈黙を貫いた。

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