悠久のシャングリラ


(……あれ……?)


不自然に言葉を切ったからか、
女の人は訝しげに私を見つめた。


「どうしたの?」

「え、えっと……」


彼女が怪しんでいるのはわかっている。

けれど、これ以上なんて言えばいいのか。


(どうして……?)


私の困惑が伝わったのか、
桜がさも当然と言いたげに口を開いた。


「自分の名前がわからない、でしょ?」

「え!」


まさか言い当てられるとは思わなくて、
大きな声を上げてしまった。


「そ、そんなことあるわけないじゃない!」

「それじゃ、君は自分の名前が言えるの?」

「…うっ、それは………」


黙ってしまうってことは、
この人も分からないんだ。

不謹慎かもしれないけど、
同じ境遇の人がいてよかったと思う。

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