悠久のシャングリラ


『……こ……め……』

「え?」


風に乗って届いた断片的な声に、
私は思わず足を止めていた。


『……れ…以上……て……』


(この声……!)


私と桔梗が初めて化け物退治をしたときに
聞こえてきた声とよく似ていた。

……聞き間違えなんかじゃなかった。

……誰かの声だったのだ。

必死に声の主を探す。

けれど周りが暗くて、
先の方まではよく見えなかった。

そのとき、
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


(? これは……、花の……)


気づいた瞬間、頭に霞がかかっていった。

視界がぼやけ、
館と私の境界線が曖昧になる。

何も考えられず、
ただこの甘い蜜に全てを委ねてしまいたい。

私はなにかに誘われるようにして、
一歩踏み出した。

< 95 / 306 >

この作品をシェア

pagetop