悠久のシャングリラ
『……こ……め……』
「え?」
風に乗って届いた断片的な声に、
私は思わず足を止めていた。
『……れ…以上……て……』
(この声……!)
私と桔梗が初めて化け物退治をしたときに
聞こえてきた声とよく似ていた。
……聞き間違えなんかじゃなかった。
……誰かの声だったのだ。
必死に声の主を探す。
けれど周りが暗くて、
先の方まではよく見えなかった。
そのとき、
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
(? これは……、花の……)
気づいた瞬間、頭に霞がかかっていった。
視界がぼやけ、
館と私の境界線が曖昧になる。
何も考えられず、
ただこの甘い蜜に全てを委ねてしまいたい。
私はなにかに誘われるようにして、
一歩踏み出した。