春風駘蕩
子供の頃からパソコンに触れる機会が多く、その奥深さにひかれてシステムエンジニアを目指したという安達君は、わが社期待の「システム開発の二代目神様」だ。
その才能と実力は、社内の誰もが一目置いている。
ちなみに、初代「システム開発の神様」は、今は隣の課を率いている春川課長だ。
入社以来、努力と勉強を続け、その実力は社内一だと言われている。
本社で大きなプロジェクトを成功させ、いくつかの営業部で実績を積んだあと本社に戻り、高い役職に就くというのがわが社の慣例だ。
春川課長もその例に漏れず、本社での重要案件に携わり続けている。
「そのうち、春川課長が安達君をプロジェクトに抜擢するって噂だし、鍛えてもらいなさいね」
「春川課長は憧れです……美人の奥様も、有名ですからね」
安達君が、羨ましそうにつぶやいた。
「あ、萩尾さん……じゃない、今は結婚して春川さんね。知ってるの?」
「はい。神様が溺愛するキレイな奥様って有名ですから」
「そうね。キレイだし……とても強い人……懐かしいな。あ、おしゃべりしてる暇はないんだった。あとはよろしくね」
時計を見ればすでに十八時を回っていた。
私は机の上を手早く片付け、更衣室に駆け込んだ。