春風駘蕩
残業で疲れた体にかまうことなく会社を飛び出すと、キレイなイルミネーションが目に入った。
輝く色とりどりの光が大通りを照らし、わくわくさせてくれる。
心も体も、癒されるようだ。
混み合う大通りを急いで歩いていると、目に入るのは楽しげに笑い、愛情に満ちた瞳で見つめ合う恋人同士。
腕を組んだり手をつないだり、誰もがみな今日を楽しんでいる。
足早に歩きながらも、すれ違う恋人たちの温かな空気を感じ羨ましくなる。
思わず「いいなあ」と口に出すのも、仕方がない。
新年を迎え、恋人たちは特別な時間を過ごしているんだろう。
ショーウィンドウに映るグレーのコートと黒いハイヒールを履いた自分の姿に気づいた。
乱れた髪を直したくて、立ち止まりそうになる足を必死で動かせば、目の前にようやく駅が見えた。
腕時計は二十時を指している。
アンコールだけでも見られるだろうか。
カツカツと音を立てながら、駅に向かって歩みを速める。
そして、コートのポケットに手を入れ、この日のために用意してもらったチケットを確認した。