春風駘蕩
ヴァイオリニストの市川巽のコンサートチケットだ。
人気の演奏家だけにチケットを手に入れるのはなかなか難しく、年に一度手に入ればいいほうだ。
いつもなら、手に入らなくても泣く泣く諦めるけど、今回はどうしても行きたくて、市川巽のマネージャーである内川さんにお願いしてチケットを用意してもらった。
ファンのみなさん、ごめんなさい。
けれど、今回だけは許して欲しい。
今日は私にとっては節目となるコンサートなのだ。
ポケットの中でチケットを握りしめれば、愛しい人の顔が浮かぶ。
巽に会いたい。
ただそれだけの想いに後押しされて、私は改札口を駆け抜けた。