明け方のマリア
(二) 親友
キッカケは、たった一本の電話だった。
大学を卒業して雑誌編集社に就職し、新人として目まぐるしい毎日を過ごしていたある晩のことである。
それは、アユミをマリアの元へと引き戻した。
「久しぶり。私、シズカ」
ぶっきら棒な声がした。かれこれ八年も経っているのに、昔と変わらない。アユミには懐かしいという感覚より、つい二三日会わなかっただけの、親友との会話に他ならなかった。
「元気だった? 今度、同窓会をするんだけど、参加してよね」
「同窓会?」
「幹事なのよ。地元に就職したのはあたしだけで、残っちゃったもんだから、先生に押しつけられちゃってさ」
「そうなんだ」
「ねえ、参加しよ」
「うーん」
「仕事ばっかりしてるんでしょ? たまには気晴らししなよ」
図星だった。相手は親友なのだ。
「そうね。ありがとう」
参加するには良いが、はしゃぐような気持ちにもなれなかった。どうしても現実から離れられない。
「ねえ、アユミ。この間さあ……」
それから、要件を伝え終わったシズカの、止め度もなくたわいの無い話が続く。担任だった先生の話から、近所のネコのイタズラまで。同窓会で再会できるというのに、時を忘れて話し込んでいる。
疲れ切っていた筈のアユミの心に、シズカの言葉が直接注がれ、溶け込んでゆく。
アユミは受話器を持って、ベッドに腰を下ろした。重みで出来たシーツの筋が、針のように伸びたり縮んだりと、小刻に動く。
「やだ。まだクラスの半分も架けなくちゃいけなかった」
「大変そう。そろそろ切るね」
「うん、じゃあね。今度は同窓会で」
「じゃあね、シズカ」
お互いに話し込んでいた事に気付き、電話を切った。
いつから笑っていなかったのだろう、とアユミは思った。久し振りに時間を取り戻したような気分になった。
大学を卒業して雑誌編集社に就職し、新人として目まぐるしい毎日を過ごしていたある晩のことである。
それは、アユミをマリアの元へと引き戻した。
「久しぶり。私、シズカ」
ぶっきら棒な声がした。かれこれ八年も経っているのに、昔と変わらない。アユミには懐かしいという感覚より、つい二三日会わなかっただけの、親友との会話に他ならなかった。
「元気だった? 今度、同窓会をするんだけど、参加してよね」
「同窓会?」
「幹事なのよ。地元に就職したのはあたしだけで、残っちゃったもんだから、先生に押しつけられちゃってさ」
「そうなんだ」
「ねえ、参加しよ」
「うーん」
「仕事ばっかりしてるんでしょ? たまには気晴らししなよ」
図星だった。相手は親友なのだ。
「そうね。ありがとう」
参加するには良いが、はしゃぐような気持ちにもなれなかった。どうしても現実から離れられない。
「ねえ、アユミ。この間さあ……」
それから、要件を伝え終わったシズカの、止め度もなくたわいの無い話が続く。担任だった先生の話から、近所のネコのイタズラまで。同窓会で再会できるというのに、時を忘れて話し込んでいる。
疲れ切っていた筈のアユミの心に、シズカの言葉が直接注がれ、溶け込んでゆく。
アユミは受話器を持って、ベッドに腰を下ろした。重みで出来たシーツの筋が、針のように伸びたり縮んだりと、小刻に動く。
「やだ。まだクラスの半分も架けなくちゃいけなかった」
「大変そう。そろそろ切るね」
「うん、じゃあね。今度は同窓会で」
「じゃあね、シズカ」
お互いに話し込んでいた事に気付き、電話を切った。
いつから笑っていなかったのだろう、とアユミは思った。久し振りに時間を取り戻したような気分になった。