明け方のマリア
「ごめんなさい。お久しぶりです」
気付いているかどうかも分からないのに、歩美は謝った。洋一郎の指は関節がごつごつと際だっていた。
「いいのですよ」
洋一郎はただ微笑んでいる。
「あの、お体はどうされたのですか?」
頭だけではなく、腕も頬も、細毛に至るまで、毛という毛が無いようだった。顔だけを捉えれば、やはり眉毛や睫毛さえも失われている。
「いえ、身から出た錆びという奴でして、お恥ずかしい姿をこうして晒しております」
布団から出していた片方の腕を回し、自分のつるつる頭を指先で撫でる。
滑稽にさえ見える仕草に、歩美はその先の言葉を飲み込んだ。
「ところで、実を申しますと、お婆様に青い鳥のことをお教えしたのは、自分でしてね」
「えっ?」
洋一郎は頭の上にあった手を、顎に持ってゆく。
「自分はただ、お婆様から頂いた、雑誌などを読んでいたのです。不自由な自分の、実は唯一の楽しみなのですが。そこで偶然、目に止まりましてね。青い鳥のガラス細工という言葉に、自分なりの思い出のような、まあ、そんな感じのものが浮んで来ました」
洋一郎は体を起こそうと肘をつく。歩美が手を添えなんとか起き上がると、ありがとう、と小さく礼を言った。
「お婆様から中身の事を聞かされた時には、正直、驚きましたよ。しかし何と言いますか、因果などという言葉で表して良いものか。とにかく、昔、お婆様から見せて頂いたあの青い鳥のことを、思い出したのですよ」
「あの鳥を……」
「ええ、自分も一度、手にしています」
「そうだったのですか」
気付いているかどうかも分からないのに、歩美は謝った。洋一郎の指は関節がごつごつと際だっていた。
「いいのですよ」
洋一郎はただ微笑んでいる。
「あの、お体はどうされたのですか?」
頭だけではなく、腕も頬も、細毛に至るまで、毛という毛が無いようだった。顔だけを捉えれば、やはり眉毛や睫毛さえも失われている。
「いえ、身から出た錆びという奴でして、お恥ずかしい姿をこうして晒しております」
布団から出していた片方の腕を回し、自分のつるつる頭を指先で撫でる。
滑稽にさえ見える仕草に、歩美はその先の言葉を飲み込んだ。
「ところで、実を申しますと、お婆様に青い鳥のことをお教えしたのは、自分でしてね」
「えっ?」
洋一郎は頭の上にあった手を、顎に持ってゆく。
「自分はただ、お婆様から頂いた、雑誌などを読んでいたのです。不自由な自分の、実は唯一の楽しみなのですが。そこで偶然、目に止まりましてね。青い鳥のガラス細工という言葉に、自分なりの思い出のような、まあ、そんな感じのものが浮んで来ました」
洋一郎は体を起こそうと肘をつく。歩美が手を添えなんとか起き上がると、ありがとう、と小さく礼を言った。
「お婆様から中身の事を聞かされた時には、正直、驚きましたよ。しかし何と言いますか、因果などという言葉で表して良いものか。とにかく、昔、お婆様から見せて頂いたあの青い鳥のことを、思い出したのですよ」
「あの鳥を……」
「ええ、自分も一度、手にしています」
「そうだったのですか」