明け方のマリア
 しばらくして、目の前のデスクの散乱が目に入った。


 世の中でひっきり無しに起こっている事柄の、写真や資料だ。

 時はまだ動いている。

 人々の無数の思いが、溢れんばかりにそこから伝わってくる。

 何もかもが、止まらないのだ。


※※

 歩美は、一度はキーボードに手を添えた。しかし、何も入力せず、ゆっくりと指を退く。思い付いたようにペンを握ると、近くにあった紙を裏返し、相関図のようなものを書き始めた。


『──ねえねえ、今更聞くんだけど、マリアに青い鳥を渡された時って、どんなだった?』

『渡された時?』


 ふと、同窓会でマリアの話題になった時、シズカからそんな風に聞かれた事を思い出す。

 歩美は記憶が鮮明になるまで、丁寧に遡ってゆく。


 あの時のマリアは、温かく微笑んでいた。目尻に皺を作って、包み込むような優しい眼差し……。

 殺意なんかない。

 復讐心のない、澄んだ瞳だった。


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