明け方のマリア
「何度もすみません。戸締まり表の事を言い忘れていました。私の机の……、後ろの壁にあります。最後に帰る人が記入するものなんです。まあ、今まで私しか記入していませんが……。今日は神坊さんにお任せします」
「わかりました」
知らず知らずの内に、背筋が伸びている。言われた場所に目を移すと、確かに貼り紙がある。
彼が帰ろうと、再び足を踏み出す。一歩目を着かない内に、足をピタリと止める。
すぐに振り向かなかった為、その時になって歩美はビクッと反応してしまった。
「ところで……、えー、神坊さん」
なかなか言葉が出てこないようで、えーだの、あーだの言いながら頭を掻いている。
「は、はい」
「このビルの……、あー、ええっと……、屋上に行ってみると良いですよ」
ピンと指を立て、天井を差す。
「え、屋上ですか」
「そうです。屋上です。ちょうど良いかもしれません。必要な場所です」
彼がいつもの口調に戻る。
「必要な場所?」
「行けば分かりますよ。非常階段から上がって下さい。通路の奥です。鍵が掛っていますが、この部屋の鍵と共通ですので」
微笑んでいる。官僚のような雰囲気がいつの間にか消え、天井を指差していた指を、振り子のように動かしている。
「終わったら、そこもちゃんと鍵を締めて、帰って下さいね」
彼は最後に、そう付け加えた。
「わかりました」
知らず知らずの内に、背筋が伸びている。言われた場所に目を移すと、確かに貼り紙がある。
彼が帰ろうと、再び足を踏み出す。一歩目を着かない内に、足をピタリと止める。
すぐに振り向かなかった為、その時になって歩美はビクッと反応してしまった。
「ところで……、えー、神坊さん」
なかなか言葉が出てこないようで、えーだの、あーだの言いながら頭を掻いている。
「は、はい」
「このビルの……、あー、ええっと……、屋上に行ってみると良いですよ」
ピンと指を立て、天井を差す。
「え、屋上ですか」
「そうです。屋上です。ちょうど良いかもしれません。必要な場所です」
彼がいつもの口調に戻る。
「必要な場所?」
「行けば分かりますよ。非常階段から上がって下さい。通路の奥です。鍵が掛っていますが、この部屋の鍵と共通ですので」
微笑んでいる。官僚のような雰囲気がいつの間にか消え、天井を指差していた指を、振り子のように動かしている。
「終わったら、そこもちゃんと鍵を締めて、帰って下さいね」
彼は最後に、そう付け加えた。