【完】好きだという言葉の果てに
ぎゅうっ。
抱き締める腕に力を込める。
彼女を傷付けない程度の強さで。
だけど、逃げられないような強さで。
「俺、今、すっごい幸せです。…分かります?心臓の音、凄い事になってる…」
「うん。そうだね…凄い早いな…でも…」
「…でも?」
「佳人くんの腕の中は、心地がいい…よ?」
「…あやめさん…」
「こうして、抱き締められるの、嫌じゃないよ?寧ろ、大事にされてるみたいで嬉しいな…それじゃ、だめ?」
はぐらかされてるのは分かってる。
本当は、ただ一言「好き」だという言葉が欲しいだけなのに。
やっぱり、そこは無理強いをしてまで引き出すものじゃ、意味がないから…。
抱き締めた腕を解いて、俺は彼女の方を真っ直ぐに向く。