【完】好きだという言葉の果てに
第1章「独りよがりの想い」 Side:采明
サァー…。
心地良いとは思えない、雨の音。
「はぁ…。なんでこんな雨の日に…」
どう考えても、今日は外に出る気にはなれない程の天気。
…なのだけれど、私はさっきから体に染み込んでくる雨粒にぶつぶつ文句を言いながら、慣れた道を進んでいく。
なんだかんだ言いながらも、約束を反故する訳にはいかない。
だって、いくら雨だとしても、逢わなければ何も「生まれ」ないのだから。
「ああっ!もう!やんなっちゃう!天気予報なんか当てにするんじゃなかった!!」
この雨で昨日悩みに悩んで決めた、淡いラベンダー色のワンピースを着ることが出来ず、私の雨への不満は爆発する。
昨日はどのチャンネルを回しても、天気予報は快晴のはずたったのに。
目覚めてみたら、外はアスファルトを濡らす雨。
上がっていたテンションのやり場を失い、朝からの眉間にシワが寄りっぱなしだった。
でも…。
目的の場所には、きっともういつもの席にあの人はいるだろうから…。
そう思い直し、最近になって新調したばかりの、レインコートの胸元をぎゅっと押さえ込んで、濡れた前髪を気にする私、月原采明(つきはらあやめ)は、今日何度目かの溜息を吐いた。
「とりあえず、急ごう」
誰に言う訳でもなく、一人呟いて足を早める。
雨はどんどん強くなっていく。
それに比例して積もっていく溜息。
どうして、こんな風になってしまったのか…。
疑問はこの胸の中で、いつも堂々巡り。
どうして?
なんで?
いくら考えても、その真相には辿り着けない。
私はずっと「彼」が好きで。
「彼」も私を好きだと言ってくれていた。
それはまだ…2ヶ月にも満たない日のこと。
恋をしたのは2年の夏期講習の時。
偶々通り掛かった空き教室から聴こえてきた、「彼」の声に惹かれ、その歌う姿に一目惚れをした。
だけど、そっと眺めているだけで良いと思ってた。
だって、「彼」の周りにはいつも煌びやかな女の子達が代わる代わるに入れ替わっていたから。
だから、「彼」に告白された時は凄く驚いて、上手く言葉に出来なくて、思わず涙を滲ませてしまうくらい嬉しくて、そして幸せで。
そんな私の肩を「彼」そっと抱き締めてくれた。
夢にまで見た出来事に、私はすっかり有頂天になっていた。
そう…まさしく、「有頂天」になって、熱に浮かされていたんだ。
「彼」の本質を見抜くことも出来ないくらいに。