【完】好きだという言葉の果てに
ザァーーーー…。
耳が痛くなるほどの激しい雨の音。
さっきよりもずっと強くなった雨の音に心がどろりと飲み込まれそうになっていく。
この胸の音さえもかき消すかのように、雨は…止まない。
俺は居たたまれなくなって、彼女にこんな問い掛けをした。
「先輩は、春が好きですか?」
本当はもっと気の利いた言葉があるはずなのに、そんなことしか言えない自分が情けなくなる。
でも不思議と声は穏やかなものになった。
「…え?」
急な問い掛けに驚く彼女。
でも、ここでうやむやにするのもなんかおかしいよな…。
そう思って、俺は笑って先を続けた。
「俺は、春が好きです。…先輩みたいで…」
別にここで、このタイミングで、告白したかった訳じゃないのに。
俺は気付いたらそう呟いていて。
案の定、彼女は困ったような顔をして言葉を濁した。
『好き』だという言葉の重みは、自然と零れ落ちてしまう時ほど、強さを増してしまう。
困らせたいわけ…じゃない、けど。
少しだけ、ほんの少しだけ、知って欲しい俺の本音。
いつだって、怖がらせないように笑顔を向けるのは、彼女をいつか自分の方へ振り向かせたいという気持ちの表れなんだろう。
甲斐さんと『正反対』な俺が、嫌われない為の精一杯の術なのかもしれない。
心の中で渦巻くいくつもの矛盾。
プラスとマイナスの感情の螺旋。
自分でも狡いことは分かってる。
彼女の心を乱すことはしてはいけない。
彼女の笑顔を壊してはいけないと…。
でも。
この想いは日毎重量を増していって。
自分のものにしてしまいたい、という感情が確実に育っていることを、痛感していく。
初めは、ただ、一人で全てのマイナスの感情を抱え込もうとする彼女を放ってはおけずに、また狡い自分も…きっと『自分は狡いと思ってる彼女』も全てを受け止めるしか、道がないと思っていただけのはずなのに。