呪蟲
その言葉に、滝沢は後ろを振り向けなかった。

「そ、れは、つまり−−何かの病原体、感染症というーことか?

その虫が発見者に接触したから」

「医師からは、死体にたかる『赤い虫』が肌に触れただけと発見者から聞いていたようで−−」

それは−−。

滝沢は肩越しに、後ろを−−死体のある方を見た。

「虫が肌に付着しただけで−−」

最後まで言う前に、死体のすぐ近くにいた鑑識の男が叫び声を上げた。

耳をかんざすような叫び声の中、滝沢は見た。

それを−−。

暴れ狂う鑑識の男の顔中を、恐ろしいスピードで赤い発しんが覆い尽くしていく。

それを見た佐川が声を漏らす。

「な、な、なんだ、あれ? 発症スピードが、早過ぎ−−」

次の瞬間、鑑識の顔中にできた発しんからプチプチと嫌な音を立てて、数え切れない程のうじ虫が顔を覗かせた。

そして、赤いうじ虫が男の口、目、鼻、耳とありとあらゆる穴から体内に侵入していく。

それだけではなく、うじ虫は恐ろしいスピードで成長をとげ、赤い蝿へと姿を変える。

滝沢は目の前の光景が信じられなかった。

あれは、生物なのか?
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