こいぞら。
とまどい、ゆれる。
「生きてきたっていうか...それじゃ大袈裟なんだけどさ」
だって3年間だろ?彼は辛そうに、歪んで、笑う。
「3年で...すっかり翔にも慣れた気がする」
「ど、どうして、!」
いきなり声を出したからか、彼の肩が震える。
「____ オレと違って、出来がよかったらから、な。...母さんも、かわいかったんだよ」
翔ちゃんと彼の両親は離婚していて、子供たちを女手一つ、必死で育ててきたらしい。
「オレ、頭も良くないしさ、運動神経も悪いんだ。呆れられてるの気づいてた。」
彼の目が、零れ落ちそうだ。
「翔が死んで、母さん、ずっと泣いてた。だからオレ、つい...」
「『母さん、オレだよ、翔。』って言っちゃって」
とん、と何かが壊れたような気がした。
「母さん大喜びでさ。今更言えないじゃん、実は違いますなんて」
「オレ弱いな「バカ!」...?」
気づけば叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
なんで、なんで。3年間ずっと我慢してたっていうの...?
それに。
「弟なんだから、1番翔ちゃんのこと分かってるでしょ!?...翔ちゃんが、...君がそうすることを望むと思ったの!?」
止められなかった。3年越しの、想いが。
「私は、君が演じる翔ちゃんは好きじゃないよ!!」
彼は驚いたように目を見開いた。
「...じゃあ、どうしたらいいんだよ!誰にも必要とされてない人の気持ちが分かるか!?本当のオレじゃ誰も好きになってくれないんだよ!!!」
もう、2人ともぐちゃぐちゃだ。
「気持ちなんて、分かんないよ」
でもさ、と私は笑った。
「今の、全部剥き出しにしてる君は好きだよ」
辛いのに、苦しいのに、ずっと笑顔でいたのを思うととても胸は痛くなるし腹は立つけど。(翔ちゃんの立場も考えて欲しい。)
「君は、誰よりも頑張ったんだよね」
___ もう、涙の粒が大きくなってぼたぼたと彼の目から零れ落ちる。
「...ありがとう」
私は頷き、帰ろうとする彼の背中に問う。
「あ、!君の、本当の名前は!?」
彼は今度こそ満面の笑みで、
タクミ
「『拓海』」と呟いた。
私に言った、というよりも自分に言い聞かせるように。
__ 自分の名前を、思い出したように。
「拓海!」
「はい!」
「...拓海」
「はい」
「たっくん」
「はーい」