千日紅の咲く庭で
「岳の彼女?あっ、俺、キーパーの矢野です」

岳ばかり見ていたら、休憩にベンチに戻ってきた選手に話しかけられた。

彼女かと尋ねられて素直に頷けたらいいのに。
そう思ってしまうのは私が岳に恋しているからで。


先ほどから、ベンチまで水分補給に戻ってきた選手から代わる代わる尋ねられてしまい、その度に私は作りこんだ笑顔で否定した。


矢野さんに話しかけられたのは、作りこんだ笑顔をすることにも、少し疲れてしまった頃だった。

「私、杉浦花梨です。私、岳の彼女ではないんですけど。」
ルーティンのような私の受け答えに、へぇっと楽しそうに矢野さんは目を細めて笑いながら、ベンチに座る私の隣に腰を下ろした。


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