千日紅の咲く庭で
洗いざらいの髪を肩にかけたタオルで拭きながら、浴室から出てきた岳は、想像以上に色気を帯びていた。


「さっきさぁ、花梨にあんなこと言ったけど。お袋が俺にここに泊まるようにって言ったのは、俺が一番時間に融通がきくからだから。」


やっぱり我が物顔で、冷蔵庫を開けて、キンキンに冷えた麦茶をコップに注いで勢いよく飲みほした岳は、少しだけ気まずそうに口を開く。

「岳、会社立ち上げてるんだってね。美知おばさんから聞いた」

「情報早いな」

岳は少しだけ困ったような顔して、頭をかいてはにかんだ。

こんなに色気を帯びていて、私1人ドキドキしているのに、こういう時の岳の表情は、やっぱり昔のままの岳だと、私の知っている岳のままだとさえ思えてくる。


「まぁ、パソコン一台あれば、俺の場合仕事はどこでも出来るから」


「それに、花梨のこと、昔からほっとけないんだ俺。」


岳は私に背中を向けてぼそぼそと喋った。

「だから、花梨は気にすんな。」

一言だけさらに小さく呟いた岳の一言は、私の胸にしっかりと響いた。

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