千日紅の咲く庭で
「花梨、もう家の中に入る?」

岳は少し心配したようにして私に尋ね、リビングの方を指差した。


「ううん、大丈夫」

私は岳の言葉で、どうにか視線をリビングに戻した後、岳に向かって、無理やり口角を上げて微笑みながら、頭を左右に振った。

一瞬、岳は眉尻を下げて困ったような顔を見せた。



「そういえば昔、よくここで食ったよな、スイカ」
岳はすぐにいつもの表情に戻し、空気を変えるようにしてわざとらしくやけに明るく言い放つ。


「うん。皆で種飛ばしてたよね」

岳の気遣いが痛い程分かって、私も明るい口調で応えた。


私の言葉とほとんど同じタイミングで、岳は庭に思いっきりスイカの種を飛ばした。

種はわずかに弧を描いて、軒先から少しだけ離れた位置に落ちた。

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