花よ、気高く咲き誇れ
「……そんなに好きなくせに、振ったのかよ。お前って意味不明」
「でもね。自分を嫌いになるようなことはできなかった。どんなに今までの自分と変わっても、水谷君を好きになっても。でも……私は」
自分を嫌いになることはしたくなかった。
できなかった。
「俺が知ってるハナのままで良かった。結局、お前は変わってない」
「あ、あんたこそ、舌の根の乾かぬ内に真逆なこと言って意味不明」
隆弘の思いがけない優しい口調に切ないだけの涙ではないものが流れる。
水谷君が私の全てだった、彼に変わるものなんてあるはずもない。
でも、また違う大事なものが私には見つけることができるのかもしれない。
今はまだわからないけど。
だって、私の野生の勘が水谷葵だと言ったのだから。
「……お前の失恋記念にやる」
先ほど私の頭に押し付けた箱を隆弘は開けた。
そこには、黒のスニーカー。
私が昔から愛用しているメーカーの。
水谷君と付き合ってからは履くこともなくなった。
「ヒールを履いていたお前を否定するつもりはない。葵を好きになったお前も否定するつもりもない」
スニーカーをつまみ出し、隆弘はそのまま落とす。
黒のスニーカーが私の足元に転がる。
水谷君なら、きっと優しく私に微笑みかけてそっと綺麗に足元に置いてくれただろう。