花よ、気高く咲き誇れ
水谷君のために変わっていることに彼は気付いているからこそ言えないのかもしれない。
彼は私を人の機微に敏いと言った。
でも、私からすると水谷君の方が敏いと思う。
いや、違うか。
彼は人を傷つけることを恐れている、あの爽やかな微笑みで当たり障りのない言葉を紡ぐだけ。
「今日、お昼一緒にどう?確か3限なかったよね?」
「ごめん。今日は先約があるんだ」
「そっか。それなら仕方ないね」
「ごめん」
「ううん。でも、次回埋め合わせしてね」
必ず、と水谷君は私に笑いかけ、学部棟へと入っていった。
私はそれを見つめるけど、水谷君は振り向くことなく消えて行った。
余計な期待を持たせないようにと、避けているのは何となく気付いている。
会えば変わらず接してくれるけど、それは当たり障りのない会話。
爽やかな声にその表情何もかもが好きだ。
それでも、瞳だけはどこか寂しげ、温もりを感じる眼差しなのにどこか人を寄せ付けない瞳。
彼を救いたい。
隣にいたい。
そう願っていたけど、そうはなれなくて。
でも、その私が望む立場の人なんか水谷君にはいなくて、そのことに安心していた。
先崎千里、彼女と一緒にいる水谷君を見るまでは。