花よ、気高く咲き誇れ
「あいつさ、高1の頃は俺らと同じガキ染みてた。馬鹿騒ぎはするし、品良く笑う今みたいな感じじゃなくて、もっと粗野に笑うし、悪態はつくし、授業中にマンガ読んだりとかさ」
先崎さんに見せた、あの表情だろうか。
ふっと思ったが打ち消す。
あれは怯えていた。
あっぴろげに隆弘とか友達といる時に見せる顔とは違う。
「でも、突然人が変わったように塞ぎ込んでな。マジでうつ病かと思うくらい」
「それが高2の夏?」
「ああ。塞ぎ込んでいると思ったら、校内で暴力沙汰起こして、停学。で、復帰したら今度は……」
「ちょっと、ストップ。暴力沙汰って何したの?」
「先輩の彼女を取ったとかで因縁付けられて、それで返り討ちにしたんだ。あいつ、見かけによらず、つぇーの。先輩をはけ口にして病院送りにしちまって」
「先輩の彼女を奪ったの?」
「いや、その女が葵にお熱だっただけ。葵は相手にもしていなかった。塞ぎ込んでると思ったら、目が血走って先輩を殴る蹴る。イカれてたな」
今の水谷君とは別人の水谷君。
馬鹿騒ぎをするような人間でも、感情に任せて暴力を振るう人でもない。
いつも冷静で穏やかで、爽やかな笑顔で一歩離れて眺めている水谷君とは違う。
「でさ、親が呼ばれるわけよ。そしたら、瞬時に顔を強張らせて、言わないでくれ、って先生にすがってた」
次の日、兄の結婚式があるから、言わないで欲しい、って。
隆弘はそう言って、不可解な顔をした。