花よ、気高く咲き誇れ
水谷葵、彼はそう透き通るような声で名乗った。
それだけが、辛うじて頭の中にあるくらいで、私がぼけっとしているうちに二人は立ち去ってしまったのだ。
それに気付いた時、私は雄たけびを上げて学食の注目を浴びたがそんなことはどうでも良く、何故ぼやぼやしていたのかと自分を罵った。
だが、この時の私は恋に落ちたとは思っていなかった、というか、そんな思考回路に至る前に、水谷君が消えていたことに雄たけびを上げるだけで精一杯。
その雄たけびを聞きつけてか、ハナしっかりして、と友人に揺さぶられようやく我に返った。
そうだ、隆弘の友達なんだ、しかも同じ大学なんだ、いくらでも会える。
その結論に至り、私は友人を抱きしめたが、骨が軋むほどの抱擁に華奢な友人は崩れ落ちたが、そんなことは関係ないほど素晴らしい結論にまた雄たけびを上げた。
もちろん、怒れる友人を宥めるのに小一時間ほどかかったが、それでも今日は人生で一番の良い日で間違いない。