花よ、気高く咲き誇れ
その夜、私は喜びの雄たけびを上げたかというと、そうではない。
水谷君と付き合えたら、絶対雄たけびを響かせると思っていたが実際は違った。
ただ、夢のようでふわふわしていて良くわからない。
ただ、熱に浮かされたように頭がぼっ~とする。
実感がない。
水谷君が私の肩に額を預けた時に感じた、頬に触れた髪のくすぐったさと、付き合って欲しいと言ってくれた時の顔と声。
それが繰り返し頭の中で再生され私を夢の中へと引きずり込む。
その夢から現実に戻されたのは隆弘からの電話だ。
今から行っていいか、と。
いつもなら勝手に押しかけて来るし、下手したら主がいない部屋に入り浸っているくせに。
私は、ん、とだけ答え電話を切った。
「……今日のことは俺が悪かったと思ってる」
「ん。で?」
「明日、葵には謝る」
「謝っても水谷君は自分を責め続けるけどね。一度言ったことは取り返しがつかないとはこのことね」
「………………」
「水谷君はあんたに申し訳ないと思ってる。それに優しい人だから同じように接するだろうね」
「そうだろうな。葵は本当に良いやつなんだ。人をバカにしたりなんてするようなやつじゃない」
「そのことに今頃気付くなんてバカ。まぁ、気付かないよりマシだけど」
「葵に惚れる気持ちはわかる。男の俺から見たって格好いいやつだ。な、だけどハナ……」
「私、水谷君と付き合うことになったの。だから、今日で最後にして、こうやって私の部屋に来るの。もちろん、隆弘のところにも行かない」
「…………どういうことだ?」
強張る表情に私は気付かないふりをして、何気なく返す。