花よ、気高く咲き誇れ
「あのー断りの電話私から入れておこうか?ごめん、さっき行かない、ってはっきりと水谷母に伝えれば良かったんだけど」
「……なんか、蓮井さん、俺に甘くなったね」
「へ?」
「付き合う前なんか荒治療と言わんばかりに俺の尻叩いていたのに」
「…………そうされたいなら、今すぐ実家に引っ張って行くけど?」
「それはやめてよ。こんな寒い日に外に出たら湯冷めして風邪ひくから」
至極真面目に言う水谷君に私がため息は吐いた。
帰りたくないのは、コンプレックスの原因であるお兄さんがいるからだろう。
お兄さんが実家に住んでいるかは知らないけど、ハナちゃんの誕生日会ともなれば、その父であるお兄さんと顔を合わせることとなる。
きっと、劣等感に押しつぶされてしまうのだろう。
水谷君の努力を無駄だと思わせるほどのお兄さん?
顔良し、頭良し、運動神経良し、性格良しの水谷君をどこまでも自信を失わさせるほどの存在?
スーパーお兄さんか。
「はいはい。そんなことしませんよ。実家から離れられない生活力がない男よりはよっぽどマシだしね」
「俺はきっとそんな男よりよっぽどダメな人間だよ。情けなくて愚かでガキで救いようのない……」
そこで、はっとして水谷君は口を噤んだ。
「ごめん。すごい女々しいこと言った」
可笑しそうにおどけて見せる水谷君。
きっと、その女々しい水谷君が本当の姿なんだろう。