花よ、気高く咲き誇れ





 そして、水谷兄が私の前に進み出た。



「葵の兄の蒼です。今日はありがとう」



 そう言って席を勧める姿を見て、まさにスーパー水谷兄と私は思った。


 一つ一つの動作が柔らかく心地良い。


 洗練されているようで、でも無機質さを感じさせない。


 水谷君はこんな人とずっと一緒にいたら劣等感を感じてしまうのも無理はない。


 水谷君と似ていて、非なる兄。


 そんな水谷兄の妻であり、ハナちゃんのお母さんは、ほんわかした人だった。



「こんにちは」



 ほわほわと微笑む姿が、先崎さんと似ている。


 宮原先輩と先崎さんにこの夫妻は似ているから、不釣り合いだなんて思うことはなく、むしろお似合いで私の憧れとして映った。









 ハナちゃんのお誕生日会はお姫さまの誕生日会のごとくで、私の幼少期の食べ物を取り合う弱肉強食の戦いとは違い、実に優雅であった。


 なるほど、こういう環境にいれば私にも違った人生があったのだろうと。


 まったく正反対のような環境で育ってきた相手に惚れるとは、何だか不思議だ。


 私は、自分が育った環境を最高だと思っていた。


 いや、今でもそう思っている。


 隆弘だとか兄貴とかに囲まれて、やんちゃに育って、自由があって。


 こういう水谷君の家のような上品なのは蕁麻疹が出る、そんな風に思っていたけど。


 とても居心地が良かった。


 どちらにも笑いが溢れていて、正反対なはずなのに、そこだけは一緒で。


 それが一番で。


 水谷君に惚れたわけだけど、私はこの水谷家にも惚れたというわけだ。



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