花よ、気高く咲き誇れ
すっかり泣きはらした目で、とぼとぼ駅へ向かって歩き出す。
あんな優しい人たちがいたところでは涙が止まらない。
あの幸せな空間にいたくなかった。
取り繕えなくて私は逃げ出した。
誰も憐みの目を向けることなく、温かい眼差しで。
水谷君の義姉である夏希さんは私を玄関に送り出しながら。
「私もね、そんな風に泣いたことがあった。今思い返すと、セピア色の思い出になっているの。今は辛くても、ハナさんが咲き誇る糧になる。」
何故、私にそんなことを言うのかわからないけど今は泣いて良い時だと思えた。
かぴかぴになった顔はささやかな風をもダイレクトに感じさせる。
こんな顔で歩くなんて私の美意識に反するはずなのだが今はどうでもいい。
何でだろう。
やはり血は争えぬ。
この心地良い空気……
でも、私の好きな人ではないこともわかる。
俯いていた顔を上げると目線の先に水谷兄。
お互いに歩調を緩めず歩き、向かいあう。
「面倒でしょ?うちの弟」
苦笑いする姿に水谷君への愛情が感じられる。
バカな子ほど可愛いというやつか。
「ええ。あなたの弟さん、非常に面倒です。お兄さんの育て方のせいですよ」
私はひるまずに返すと、お兄さんは本当におかしそうに笑った。