花よ、気高く咲き誇れ
「……誰のせいでもない。葵自身の問題さ」
はっきりと言い切って、水谷兄は私のぼさぼさになった髪をかき上げた。
突然の行動に私は水谷兄へ顔を向けると、それを狙っていたようで視線がかち合う。
「立ち直るのは葵。でも、きっとそれには蓮井さんが必要だと思う。面倒でも付き合ってやってよ」
真剣な目、そして何の濁りもなく綺麗な目……
「そうでしょうか?あなたの奥さんが最適なような気がしますよ」
どうだ、これで。
その目が、表情が歪むだろうか。
この人のすまし顔を崩したい、そんな水谷君の気持がわかる。
でも、水谷兄は優しく首を振った。
「夏希はだめ。俺に必要な人だから。葵には渡せない。蓮井さんと違うけど、俺たち兄弟にはもったいないくらいの女性なんだ」
「兄弟揃ってイイご趣味ですこと。……私なんて相手にされない……」
「葵に蓮井さんはもったいない。君が否定されると葵の否定だ。面倒くさいながら我が弟もそこそこイイ男だと思っているんだけど、欲目かな?」
「欲目です。贔屓目です。眼科受診をお勧めします」
あんなウジウジしていて後ろ向きな男がイイ男なはずはない。
「なら、蓮井さんも一緒に受診だ。葵のことが好きなんだから。こんな顔になるくらい」
そう。
こんなことになっても私は水谷葵が好きなのだ。
泣いても笑っても。
寝ても覚めても。
明けても暮れても。
咲いても散っても。
終わることがない。
それが悔しい。
憎んでいるのに、好きなのが悔しい。
そして、それを見透かされるのも悔しい。
ああ、この兄を水谷君は嫌うわけだ。