魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


葵様の腕や足を丹念に看ていた草下さんが、困惑気味に眉尻を下げた。その表情に躊躇が滲む。


「しかし、」

「君は誰の専属執事? 君の主人は誰?」


川の中に落ちているというのに、蓮様には品格や気迫がある。
やや厳しい口調で問いを投げられた草下さんは、僅かに目尻をつり上げた。


「葵様、です」

「だったら自分の主人のことが最優先でしょ。僕のことは、僕の執事がどうにかしてくれるらしいから」


え、と蓮様を凝視してしまう。すると彼は、「なに?」と前置いて、無愛想に確かめた。


「君は僕の執事じゃなかったの?」

「え――あ、そうです! 私は蓮様の、蓮様だけの専属執事です!」


力説も虚しく、「専属って『だけ』って意味だから、それ二重表現ね」と訂正されてしまった。こちらとしては、二重表現だろうが――頭痛が痛かろうが何だろうが、全力で蓮様にお仕えするという心意気なんだけれども。


「草下さん! 蓮様のことは私にお任せ下さい!」

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